【書評】 Testosterone , 般若/筋トレ×HIPHOPが最強のソリューションである 強く生きるための筋肉と音楽

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筋トレ×HIPHOPが最強のソリューションである 強く生きるための筋肉と音楽

ファイジカル(本)をお買い上げの方にはDLCで般若のアルバムIRON SPIRITがついてくる。お得な上に本としても早く読む人ならアルバムを1周聞いている間に読み終えるボリューム感も筋トレの時間を圧迫しなくて親切だ。

筋トレ系格言アルファツイッタラーTestosteroneと、ラッパーでありラスボス般若による書籍。

Testosteroneが般若へのラブコールによって対談が実現したという流れだ。1988年生まれのTestosteroneはすでに中学生の頃妄走族の般若を知っていたそうだ。
Testosteroneの過去の書籍と同様にツイートをでかい文字にしたページや、アスリートへのインタビュー、そして筋トレ愛好者のラッパーたちの座談会で構成される。筋トレとHIPHOPを結びつけるためにまずはここで用いられるところのHIPHOPを定義しなくてはならない。副題には強く生きるための筋肉と音楽ということであるが、実際のところ音楽としてのHIPHOPの話はほとんど出てこない。冒頭のジムで流れているHIPHOPミュージックが筋トレと相性が良かった経験の話と、トレーニングしながら聞く音楽のテンポや音量で効果が違うというスポーツ科学的な話だ。ちなみに、筋トレで効果的な音楽のテンポは120~140bpmとこのことだ。TRAP系を2倍で取るなど手段はあるがHIPHOPと筋トレが相性抜群なのだろうか。
この本で主軸となる筋トレと相性が抜群であるとするHIPHOPとは、音楽的なものにはなく、思想的な部分にある。
般若、AK-69、Young hastle、シンゴ☆西成、DJ Filmoreなどが自身の曲のリリックなどから筋トレに励むNo pain No gainな哲学を語る。人生で勝つとか、心理とか、向こう側に行くとか、そういった具体性にかけるものが多いが、HIPHOP(の強気なやつ)を聞いているとき、すごくやる気が沸いてくる気がする。その効果については、般若はじめ彼らの曲やそれ系の曲を知っているかという部分に左右されるので、般若のアルバムがついてくるとはいえ、オススメ楽曲のプレイリストでもあればよかった。

余談だが、AK-69はプロ野球選手登場曲使用数No.1に三度輝いたことがあるらしい。
般若のアルバム付きで、さらには本書に出てくるラッパーのメンバーに興味のある人ならこの本は買いであり、お釣りもくるくらいだろう。

HIPHOPと筋トレの関係を啓発的な面にしぼった本書でも、HIPHOPの文化的面にも少しだがTestosteroneの考えが書かれている。

差別や世の中の不条理に対して、デモや暴力で対抗するのではなく、ヒップホップという芸術フィルターを通した表現で訴えかける手段だ。

とのことだが、デモや暴力という同列な書き方はひっかかる。最近ではラッパーのCOMMONが銃規制デモMarch for Our Livesで行進してステージでパフォーマンスしている姿が話題になった。

HIPHOP永遠の名曲のひとつでもあるPublic EnemyのFight the powerのPVではデモ行進や集会のような風景が舞台である。デモとは暴力に対抗する手段でもあり、HIPHOPの一部でもある。

これらのことからHIPHOPの文化性についてTestosteroneはあまり理解があると言えないが、トレンドは理解していると思う。または我々が読むことで日本のHIPHOPのトレンドというか空気感を少し変わった形で知ることもできる。
Testosteroneの言うHIPHOPの弱者への救いは何にあるか、それは聞いた者を奮い立たせることだという主張とその弱者が強くなるための手段が筋トレという共通性でくみ上げられた本書の内容は、昨今のHIPHOPの手前で強くなれというトレンド(日本の)をよく理解しているか、もしくは、Testosteroneの指向と相性がいいようだ。
この弱者に手前でなんとかしろ的思考は、新自由主義的といえば陳腐であるが、それが個人の問題を何かに忠誠を求めてうやむやにすることに比べ、筋トレという具体的手段を提示してくれてるんだから、こちらはかなり良心的ではないか。
ECDの自伝的小説、失点インザパークで、ECDがすぐにリタイアしたコンクリートを流す工事の仕事で、筋トレが趣味の同僚がキツイ仕事にあえて身を投じているような場面があった。あまり真似をしたいと思うような生き方ではないが、その人物の肉体的にも思考的にも筋トレで人生を切り開いているといえばいえる。

ところでAK-69は先日安倍総理と記念撮影をしてSNSで炎上していたが、この本で文句あるなら目の前で言えというのはブラフではなく本気だと言っていたのだが、あの中からマジで来いといったらどれくらい来るか多少の興味はある。

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