再考、K DUB SHINE/Save the children
ラッパーK DUB SHINEが児童虐待死の事件をきっかけに、2001年のSave the childrenを思い出した人たちをリツイートしているのを見てそういえばそういう曲あったなと思い出す。
この曲を初めて聞いたときは、K DUB SHINEが「俺に言え」と言い放ち何をできるわけでもない無責任さを曲にするのはどうなのか、と感じていた。「ないわ…」とケーダブ好きの私でも思っていた。
その後RUMIのファーストアルバムに、asaによるプロデュースのトラックでアキメクラという曲があった。
そのリリックで
涙を振り切り生きてきたガキが俺に言えなんて言葉に耳を傾けると思うな
と、強烈に皮肉ったラインがあった。当時のストリートの感覚として、見当違いなことをK DUB SHINEが言っているというのは結構共有されていたように思える。よくディスられてたし。その後に続く
政治家みたいなラッパーの演説
というラインもまさに皮肉だ。
RUMIの1stアルバムHell me tightはその生々しさもあるリアルなリリックに多感な年ごろだったこともありガツンとやられて、K DUB SHINEに聞く耳持たなかったのであった。
そして年月を経て、K DUB SHINEがこういったことをテーマに歌うラッパーが出てこないことをツイッター上で嘆いていた。2008年の般若のアルバム、ドクタートーキョーのプランAなども挙げられるが10年も前になる。
ここで、K DUB SHINEのSave the childrenを再び考えてみたいと思う。
このリリックは虐待をする親の愚かさを説き、他者も何もしないことも罪だといった内容で、そこから「俺に言え」「お前が行け」と日本語ラップリスナーには超有名なフレーズのフックへとつながる。
児童虐待の罪、といったものを改めて考えさせるものだがこれは児童虐待を防ぐための啓発になるのだろうか。
実際に児童虐待への対応をする、民生委員向けの本を過去に読んだことがあるが、まず犯人捜しや罪の意識を背負わせるようなことは問題をこじれさせるのでNGであることはまず最初に出てくる。
虐待への罪の意識があるからこそ、親は隠そうとしたりするのである。ジャンキーに薬物をやめろと言うのと同じ次元ではないか。児童虐待は貧困家庭に起こりやすいという数字もある。そして、貧困もその家庭の次世代に受け継がれやすく、残念ながら価値観といったものではどうしょうもできず起こるべくして起こっていると言わざるを得ない状況である。
だからお前は児童虐待を放っておいていいのか、と言われてしまうかもしれないが、このSave the childrenの神髄はフックにある。
「俺に言え」というフックは、実際にK DUB SHINEが問い合わせ窓口になると言っているのではなく、K DUB SHINEは自身の在り方を示している。そして、最後に「お前が行け」と締める。問題のあるそれぞれのバース(自閉症の箇所も含め)だが、虐待は起きるという諦観を一蹴し、何かあったら動けば何かできるかもしれないという救いはあるフックだ。
児童虐待とは切っても切り離せない貧困など、ひとつひとつ挙げていけば言葉にはできるがそれだけでは物足りない、誰かが言っていた”この国を覆っている何か”というものはリリックにするのは困難だ。だからこそ、日本語ラップがこの状況に対峙するには今は「俺に言え」「お前が行け」でひとまず持ちこたえていくしかないというのが、自分も含めてこの曲を思い出す下地にあるように思えてならない。