【書評】DARTHREIDER/MCバトル史から読み解く日本語ラップ

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MCバトル史から読み解く 日本語ラップ入門 表紙MCバトルを見て、日本のヒップホッピに興味を持つ流れが最近ある。知人で本当にそういう感じで教えてくれと言ってきた者達がいた。とりあえず色々聞かせてやると、TOKONA-Xのトウカイテイオーは非常にウケがよかった。コワそう、攻撃的といったところがバトル的でグっとくるんだって。

日本のヒップホップがどんな積み重ねでここまできたのかということに関し彼らは知らないが、テレビやスマホごしに見る火花を散らすMCたちを見て「現場はリアルだ」と思ったというようなことを口々に言っていた。

あの場が本当の勝負が行われいているということは、まあそうなんでしょうねと思うだけなのだけど、あれこそがリアルだと言われるとこうモゴモゴ何か口を挟みたくなるものである。私も本当にこんなに人気を博す前のMCバトルの大会を見にいったとき、その今までなかったクラブでの空気や、勝ち上がった知り合いやまだ知らなかったMCが口コミで評判になっているような出来事に触れると、「本当のリアルヒップホップはここにあった!」と完全に思ってしまったから、その気持ちわかるよ。

そんな現在の状況で、MCバトル黎明期からシーンを見てきたダースレイダーがMCバトルと日本語ラップシーンのかかわりと歴史を解説するという本だ。リアルとはまさに現場にある。これだけ現場を見てきて、ヒップホップや日本語ラップ愛あふれる、この人以外になかなか出せるような本ではないと思う。

日本語ラップを理解するために、MCバトル史を用いるという印象をうけるタイトルだが、MCバトル史から読み解くMCバトル入門ではないかなと思った。ネットやDVDなどでバトルの動画を見た人が、それがどのような意味があったのかを確認するガイド本のように感じる。

取り上げているバトルについては、youtubeで見れるものやDVDなどあらかじめ見ておくといいかもしれない。

MCバトルの過去のリリックを文字で起こし、勝敗を分けたのは何だったのか?試合の制度であったり、MCの背負ったものやスキル、それを受け取る観客の要因、時代背景等わかりやすく解説している。MCバトルはなんとなく雰囲気でどっちのラップが好きだったか判断していたので、判定について勉強になった。

あとがきでヒップホップと日本語ラップは切り離して考えたほうがよい、日本語表現の深化を促すことで様々な人がふれることができるとダースレイダーは述べており、その取り上げるバトルで優劣をつけた日本語表現とは何かということを論じたことは、日本語ラップの面白さを知るという目標をある程度は達するかもしれない。

あと、皆さま真顔で心配してる”MCバトルスポーツ化問題”、”バトルMCの音源問題”も、MCバトルから入った日本語ラップ入門者は聞かされてもまず”?”と思うところだが、この本ではわかりやすく書いていると思う。

そして、この本の面白いところは、MCバトル史を著者であるダースレイダーの主観で進めるというところだ。ダースレイダーが一番MCバトルに出ていた時期はDMR(ダメレコード)を主宰しており、そこらへんを突っつかれたり、そしてどう思ったかということも興味深い。何より面白かったのは冒頭の、まだダースレイダーが何者でもなかった駆け出しのころに飛び入りでSOUL SCREAMのE.G.G.MANにバトルを仕掛けた話など。

MCバトルのリポートをはじめ、ブログなどで文字のみで日本語ラップの面白さを伝えたい人は結構参考になる本なんかではないかと。

面白かったのはSPRITUAL JUICEのATOMがB-BOY PARKのMCバトルで姿を現さずにマイクだけ持って隠れてラップをして、審査員のRIKOに「ラッパーなんだから姿を現さなきゃダメなんじゃない?」と言われたことを、”誰も正解がわからない時代の光景”と書いた件だ。ダースレイダーも相手を挑発する踊りを行い、審査員のRIKOからは「どうかと思う」と言われるが、同じく審査員をしていた故デブラージからは「相手を挑発するのもヒップホップだ」と理解を得られていた。

そんなことを読んでいて思い出したのが、昨年のあるMCバトルでラップをしないで縄跳びした事件。正解がわからない時代というのは今も続いていて、聴衆の求めるものがはっきりしているのではないかと思う。「これが正解だ」という見えない何かの圧力と、「違うと思う」という反発の中で、隠れてラップしたり、踊ったり、ラップしないで縄跳びをするなどし、私をクスっとさせてくれたりもっと驚く何かを見せてほしかったりする。真剣に競技を楽しみたい人には悪いが。

ところで気になったのだが、本書は人名は基本的に敬称略と書かれているところ、”太華くん”とSHINGO☆西成だけ”西成さん”と書かれていた。

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