【書評】般若/何者でもない

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般若 何者でもない

何者でもなかった般若が、反骨精神を持つきかっけの幼少時代からの話に始まり、様々な人々との出会いや別れを経て何者かになろうとした物語が綴られている。ラッパーの自伝に限らず、次々に名を上げていく同業者や世の中の移り変わりを見て、焦りながらもがく姿の数々をこれ系の書籍で見てきた。
とりわけ般若においては、長渕剛に人生を救われたというだけあって、全275ページ中50ページ近くも名が出てくる長渕剛が般若の人生に光を当てた過程が中心となっている。本書で最も名前が出てくる人物は、長渕剛である。
生い立ちの話から始まり、長渕パートとHIPHOPパートでドラマは展開していく。私は般若の名前を知ったのは妄走族のアルバムからで、その後にB-BOY PARKのMCバトルでの活躍や、RUMIとDJ BAKUらとグループを結成していた話やHIPHOP NIGHT FLIGHTに電話出演した話を知ったので、こういったひとつひとつの出来事が線でつながった話を本人が語ったものを見れたのは幸運である。妄走族についての部分が本人も筆が重かったのか、踏み込んだ話はあまりなく、仲良かったメンバーで集まって、時が流れて離れていきました的な描写だったのが多少残念ではあったが。
時に不遜でぶっきらぼうな態度を見せる般若であるが誰がなんといおうと自分は自分というようなイメージを持っていたけれども、自信を獲得していく過程には長渕剛であったりオーディエンスの声が大きかったことが意外であった。
ビッグマウスな人物の自伝やサクセスストーリーでは、そんな人物が見せる”弱さ”というもので共感を呼ぶという構成はよく見られるし、そういうものを見ても食傷気味でよっぽど上手く書かないと特に心が動かないけれども、般若でやられると「おっ」と思わせられてしまった。ギャップ萌え。般若で射精した。

ところで本書の中で、RUMIと組んでいた般若という名前のラップグループが解散、もとい自然消滅するきっかけに般若(当時YOSHI)が妄のメンバーらと行っていたカチコミ(マイクジャック)を見ていたRUMIがドン引きしてしまったというものがあり、それに対しての謝罪の言葉があった。でも、一番謝らなきゃいけないのはマイクジャックされたラッパーやそのイベント主催者なんじゃないかな…と、もやもやしたりもした。
かっこいいライブでしかカチコミしないとか、ライブが終わるところを狙ってしたという謎のフォローもあったがなんとも無責任な…と印象は拭えぬところだが、そこも般若らしいか。
何かに噛みつくことよりも大事なことを見つけたストーリーを展開していた本書では、しかしながら何かに噛みつくことを辞めるとは書いていない。プロローグでは責任もつきまとう、リスナーを裏切りたくないという思いが書かれている。
無責任に何かに噛みつく般若というものもやはり期待してしまうのも事実で、KREVAに俺と勝負しろと地上波で宣戦布告してしまったり、Zアイランドをラジオで取り上げない宇多丸をdisったり、同じSUMMERBOMBで出演予定のK DUB SHINEへのお手紙を読んだりといった行動もある意味誠実なんだなと思った。

以下、期待したけど特に書かれていなかった点

妄マンション
妄ショップ
妄ウェア
KREVAに宣戦布告
Zアイランド

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